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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

「あまり早く出かけて行って、その屋敷のあたりをまいまいし、陣十郎に目付けられでもしたら、面白くないことになる、おそい方がよろしゅうござる」と、要介はそう云ってかえってよろこんだ。

家にいる時も外へ出てからも、どういう因縁から源女のお組などと、先生にはお懇意になりましたか? お組のうたった不思議な歌の意味、あれはどうなのでござります? 何が故に水品陣十郎は、先生やお組を狙うのですかと、浪之助はいろいろ要介に対して、訊きたいことがあったけれど、一つは昨夜陣十郎によって、そういうことに触れてはならぬと、威嚇されたのが身に泌みてい、一つは要介その人も、そういうことに触れられることを、好んでいないように思われたので、つい浪之助は訊きそびれてしまった。

こうして本郷の榊原様の、お屋敷地辺りまでやって来た。

屋敷町は更けるに早く、ほとんど人の通りなどなく、家々の門は差し固められ、甍が今夜も明かな月夜、その月光に照らされて、水に濡れたように見えるばかりであった。

「先生、このお屋敷でございます」と、浪之助はお長屋の一軒の前で立った。

二百石取りか三百石取りか、相当立派な知行取りの、お長屋であることは構えで知れた。