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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

と一つの人影が、月光を避けて家の塀の陰を、それからそれと伝わって、この一画から遁れ出て、下谷の方へ行こうとするらしく、ぞろぞろと歩いて行くのが見えた。

ほかならぬ水品陣十郎であった。

髻が千切れてバラバラになった髪を、かき上げもせず額にかけ、庄右衛門を切った血刀を、袖の下へ隠しながら、跣足のままで歩いていた。

辻を左へ曲がった途端、

「出た――」

「やれ!」

剣光! 足音!

五人の武士が殺到して来た。

「…………」

無言でサ――ッ。

「ギャ――ッ」

「ワッ」

仆れた。

生死は知らず二人の武士は仆れ、三人の武士は一散に逃げた。

そうしてここの地点から、陣十郎の姿も消えていて、霜の下りたような月光の中に、のたうっている二人の負傷者が、地面を延びつ縮みつしていた。

中山右近次と伊丹佐重郎、その両家に挟まれた、黒い細い露路の中を、この頃陣十郎は歩いていた。

さすがの彼も疲労したらしく、時々よろめいたり立ち止まったりした。

丁字形の辻へ出た。

左右前後をうかがってから、右の方へ歩いて行った。

と、一人の夜廻りらしい男が、六尺棒をひっさげて、石材の積んである暗い陰から、鷺足をして忍び出て、陣十郎の後を追った。