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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

「待て」

「へい」

「何者だ」

「ごらんの通りで……お見遁しを」

「うふ、そうか、おっこち同志か」

「へい」

「行け」

「ごめんなすって」

「これ、待て待て」

「何でございます」

「物騒な殺人者が立ち廻っているぞ。用心をして行くがいい」

「――へい、ご親切に、ありがたいことで。……」

三月が経ち初秋となった。

甲州方面から武州へ入るには、大菩薩峠を越し丹波川に添い、青梅から扇町谷、高萩村から阪戸宿、高阪宿と辿って行くのをもって、まず順当としてよかった。

この道筋を辿りながら、一人の若い武士と一人の娘とが、旅やつれしながら歩いていた。

鴫澤主水と澄江とであった。

父の敵水品陣十郎を目つけ、討ち取って復讐しようという、敵討ちの旅なのであった。

主水と陣十郎との関係は?

従々兄弟という薄いものであって、あの時からおおよそ三カ月ほど前に、飄然と鴫澤家へ訪ねて来て話を聞いて見れば、成程そんな親戚もあったと、ようやく記憶に甦えったくらいで、世話する義理などないのであったが、寛大で慈悲深い庄右衛門は、そういうことにはこだわらず、陣十郎の懇願にまかせ、家へ寄食させて世話を見てやった。