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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

の娘を武家は厭、町家の相当の家柄の家へ、――という希望を叶えさせ、呉服問屋へ嫁入らせ、安心したところでコロリと死に、後には長男の浪之助ばかりが残った。当然彼が家督を取り、若い主人公になり済まし、現在に及んでいるのであるが、この浪之助豚児ではないが、さりとて一躍家名を揚げるような、一代の麒麟児でもなさそうで、剣道は一刀流を学んだが、まだ免許にはやや遠く、学問の方も当時の儒家、林信満に就いて学んだが、学者として立つには程遠かった。

ところがこのごろになって浪之助は、何かドカーンと大きなことを、何かビシッと身に泌みるようなことを、是非経験したいものだと、そんなように思うようになった。なまぬるい生活がつづいたので、強い刺戟を求め出したと、そう解釈してよさそうである。

袴無しの着流しで、蝋塗りの細身の大小を差し、白扇を胸の辺りでパチツカせ、青簾に釣忍、そんなものが軒にチラチラ見える町通りを歩いて行った。

浅草観世音へ参詣し、賽銭を投げて奥山を廻り、東両国の盛場へ来たときには、日が少し傾いていた。

娘太夫を巡って

1

両国橋を本所の方へ渡ると、江戸一番の盛場となり、ことに細小路一帯には、丹波から連れて来た狐爺とか、河童の見世物とか和蘭陀眼鏡とかそんないかがわしい見世物小屋があって、勤番武士とか、お上りさんとか、そういう