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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

舞台には華やかな牡丹燈籠が、二基がところ立ててあり、その背後には季節に適わせた、八橋の景が飾ってあり、その前に若い娘太夫が、薄紫熨斗目の振袖で、金糸銀糸の刺繍をした裃、福草履を穿いたおきまりの姿で、巧みに縄をさばいていた。

「おや、ありゃア源女じゃアないか」

驚いて浪之助は口の中で叫んだ。

娘太夫は源女のお組、それに相違ないからであった。

瓜実顔、富士額、薄い受口、切長の眼、源女に相違ないのであった。ただ思いなしか一年前より、痩せて衰えているようであった。

(舞い戻ってこの席へ出たものと見える)

油然と恋心が湧いて来た。

(逢って様子を聞きたいものだ)

その時源女が昔ながらのとはいえ少し力の弱い声で、

「独楽は生独楽生きて廻る」と、口上を節づけて述べ出した。

「縄も生縄生きて動く。……小だめしは返り来の独楽、縄を離れても慕い、翻飜として飛び返る。ヤーハッ」と云ったかと思うと、右手の振袖が渦を巻き、瞬間縄が宙にほぐれ、差し渡し五寸もあるらしい、金蒔絵黒塗り銀心棒、朱色渦巻を胴に刻った独楽が、唸りをなして舞い上り、しばらく宙に漂うように見えたが、あだかも生ける魂あって、すでに源女に手繰られている、絹、麻、髪を綯いまぜて造った、鼠色に見える縄を目掛け追うかのように寄って来た。