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げきだん「わらうようま」

劇団「笑う妖魔」

山本 周五郎

「少年少女譚海」1938(昭和13)年夏期増刊号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,705 字 · 18 页

青空文庫

「あッ!」

と不意を喰ったゆき子が立止まるより疾く、その男はさっと踏みこんだと思うと、持っていた黒い布をいきなりゆき子の頭へ冠せ、恐ろしい力で抱き竦めた。

「あッ、助けてーッ」

声を限りに叫ぶのを、男は軽々と抱上げたまま元の部屋へ入って扉を閉めてしまった。

劇場の中はひっそりとして物音もしない。ゆき子がこんな罠に墜ちたことは誰一人として知らないのだ。――彼女を呼出した電話の主は誰であろうか? この怪人は何のために彼女を誘拐したのであろうか? ……今この日東劇場には「笑う妖魔」という、歌劇と奇術とを交えた外国人の劇団が開演している。それとこれと、何かつながりを持っているのではあるまいか※(感嘆符疑問符、1-8-78)

一方富士見町の家では、――

夕食の時間になってもゆき子が帰ってこないので、野河家へ行ったのなら御馳走になって来るだろうと、父親は五郎とともに食事を済ませてしまった。……それから部屋へ戻って、九時頃まで昨日の怪殺人事件の話をしていたが、ゆき子の帰って来る様子がない。

「少し遅過ぎるな。お饒舌りをしているので、時間のたつのも知らんのだろう」

「僕ちょっと電話をかけてみましょう」