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かご

加護

宮本 百合子

「大阪毎日新聞(夕刊)」1920(大正9)年8月17日~28日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,147 字 · 33 页

青空文庫

お幾は、言葉で云い表せない親切をこめた荒々しさで、お恵さんの手から、派手な色の美しい小布を奪いとった。

「何か気を紛らすようにおしなさいましよほんとにあなたは……」

お幾はあわてて洟(はな)をかんだ。

彼女の姉らしい叱責にすなおな微笑で答えながら顔を擡げたお恵さんの眼には、悲哀と信頼とが混り合って輝いて見えた。彼女は、やがていつもより一層しんみりとした口調で、ぽつぽつと話し出した。

「この頃はね、外は寒いし、家にいても気分が捗々(はかばか)しくないので、ついこうやって炬燵にずくんだままで随分いろいろなことを考えて見ました。今までは何や彼やごたごたして一度も考える気で考える時がなかったようなものですものね」

お幾は何と云ってよいのか分らずに蒼白い小さいお恵さんの面を眺めた。

「考えて見ると、好い加減な暮し方をして来たのだと思いますよ。ほんとに自分で気のつかないほど好い加減なのですね。何でも彼でも上面だけ考えていたのですもの。――いつかあなたがおっしゃいましたね、あの広田が亡くなったのは只事でないって……」

「あれは、お恵さん私……」

「いいえ大丈夫。決してそういう積りじゃあありませんの、ほんとにね広田のなくなったのも、誠之が死んだのも、この頃では何か訳のあることなのだと気が附き始めたのです。