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かご
加護
宮本 百合子
「大阪毎日新聞(夕刊)」1920(大正9)年8月17日~28日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,147 字 · 33 页
あの時こそ、意地であなたにたてついたけれどもね」
お恵さんは寂しい笑顔でお幾を見、眼をふせてじっと両手で捧げるように持った茶碗の中を眺めた。
「あなたも御存知の通り、広田は正しい人でした。誠之だって、私の眼から見れば人並よりは何か違ったよいものを持って生れていたと思われます、それは勿論親の贔屓目(ひいきめ)かも知れませんわ。けれどもたとい贔屓目にしろ、自分が時には頭を下げるような児を、思いがけないことで取られて見ると――何か大変な手落ちをしたような相済まない心持が致します。あなたはお仕合せで、お子さんをお一人もおなくしになったことがないからお分りにならないでしょうね、けれども子供に死なれるのは――本当に辛いことです。自分が死ぬよりも幾層倍苦しいか分らないと思いますわ」
微笑もうとしたお恵さんの唇は空しく震えたまま、眼から涙がこぼれ落ちた。
悲痛な言葉を聞き、お幾は殆ど身動きもならないような何物かに心を圧倒された。何か云ったら、飛んでもないことを云いそうで――お幾は今自分がものを云ったら、云うほどのことが、皆空虚なお坐なりに聞えそうな不安な気がした。