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かご

加護

宮本 百合子

「大阪毎日新聞(夕刊)」1920(大正9)年8月17日~28日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,147 字 · 33 页

青空文庫

妹が死んだとなっては、さすがに棄てても置けまいという風に、常は冷酷な兄の、卑しい大きな顔も見える。

然し、お幾は、それ等に、適当な弔みを云うことさえも忘れた。

こんなことがあり得るだろうか。こんなことが、あってよいものだろうか。

膝で進んで顔被いをとり、さほど面変りもしない友の容貌を見守ると、始めて彼女の眼からは、とめどない涙が流れ出した。

相変らず女らしい形よい額つき、つつましさそのもののような眉。道ばたで死のうとし、最後に何が彼女の心に閃めいたのか、色のない唇には、実に綺麗な、しかも、ぞっとするほど神秘的な微笑のかげが差しているではないか。

名を呼ぶにはあまり悲しく、礼をするにはあまりなつかしく、お幾は声をあげて泣きながら、額を、細い友の手にすりつけた。

逆さまにかけられた黒縮緬の裾模様からは、ほのかに樟脳の香が立ちまよう。

皮膚から心までしみ徹すような冷たさと、涙の熱さを感じながら、お幾は、心の裡で、最後の友愛を友に誓った。若しお恵さんに、一言口を利くことが出来たら、彼女は、どれほど、独りの娘のことを云うだろう。どんなに痛わしがり、不幸な縁を歎くだろう。