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けしょうのもの
化生のもの
豊島 与志雄
「世界」1950(昭和25)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,086 字 · 27 页
」
「ほほほ、聖母マリアみたい……。もっとも、あのひとは処女ではない筈ですけれど。」
「いまに、キリストさまがお産れなすったら、たいへんなことになりましょうね。」
「さあ、どうでしょうか。産れる前に、処置しておしまいなさるかも知れませんし。」
「そのようなこと、簡単に出来るものでしょうかしら。」
「いずれは、入院とか旅行とか、そんなことでございましょうね。」
然し、美枝子の日常は聊かの変りもなかった。入院も旅行もなく、面やつれさえも見えず、芝居や映画やお茶の集りなど、平素の通りの社交ぶりだった。知人たちの好奇な眼を腹部に受けても、全く気にかけていないようだった。親しい友だちの間でも、噂がただ愛人のことに止まってるうちはまだしも、姙娠ということになってくると、さすがに、未亡人たる彼女に面と向って言い出すのは憚られた。但し愛人から姙娠へと、噂の移り方が時間的に早すぎはしたけれど、そのようなことに留意するのは、単なる交際上では無理だったろうし、第一、両者が同時に起ることだってあり得るのである。
美枝子の腹部は少しもふくらんでこなかった。ただ、秋気が深まるにつれて、彼女はいくらか肥ってきたようだった。