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けしょうのもの

化生のもの

豊島 与志雄

「世界」1950(昭和25)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,086 字 · 27 页

青空文庫

「あのひとが愛人を拵えようとどうしようと、それは俺たちの知ったことじゃない。」

それが最初の意見だった。美枝子は美しかったし、未亡人だったし、無関心に見過せる相手ではなかったが、然し、ただ愛人が出来たというだけで、それが何処の誰だか分らない間は、ただ一種の色気を彼女に添えるに止った。相手がはっきり分れば、おのずから事情は異ってきたろう。

ところが、噂が一転して姙娠となると、それはもう一種の嫌悪の情を伴ってくる。色気どころか、穢らしいものとなる。そしてこうなると、男は無慈悲なものだ。彼女の腹部がふくれてこないことにも、皮肉な解釈が加えられたのである。

「全くのところ、女というものには油断がならない。秘密に愛人をこさえ、秘密に姙娠し、秘密に事を処理する……つまり、一切のことを秘密に運ぶ能力を、女は持ってるのだ。それに比べると、男はまるで赤ん坊だ。どんなに秘密に事を運ぼうとしても、すぐに尻尾を出すからね。」

「しかし君、秘密に姙娠する、それだけはちと言いすぎたね。」

「ははは、男が知らないうちに、と訂正するか。」

そしてもう一笑に附されてしまった。噂の真偽などは問題でなかった。