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きただけとあさひだけ

北岳と朝日岳

木暮 理太郎

「改造」1929(昭和4)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,121 字 · 16 页

青空文庫

それからグイとのし上った峰頭は稍東に傾いてはいるが、均斉の美を欠く程ではない。巓は小さく根張りの大きいことは、御岳から眺めた乗鞍岳と同様である。唯全体に少し痩せて峻峭の感が遥に深い。九合目あたりの冴えた緑は若草の色かと想像した、けれどもそれは雨に洗われた偃松であったろう。何にしても男らしい山だ。私は思わず飛び上ってあれは何山だろうと叫んだ。其声に小屋から首を出した水汲みの人夫は、笑いながら「あれは白峰だ」と答える。白峰、白峰、私の記憶は甦った、そうだ、白峰だ。曾て御岳の頂上から長揖したあの白峰の北岳だ。

私は遠からず此山に登ろうと固く決心した。

明くる三十年の夏、三たび御岳に登っての帰るさ、権兵衛峠を踰えて伊那に出で、再び戸台を訪れて、また小松方に一泊した。小黒川の伐木事業は既に完了したものか、谷間はもとの静寂に返って、往来の人影も稀である。主人に昨年の礼を述べ、白峰登山の目的を話して相談すると、白峰に登るには野呂川の広河原の小屋まで行かなければならない。わしは登ったことはないので、いいかわるいか知らないが路は通じているそうである。早朝出発すれば一日で往復されるというし、途中のお池の側にも小屋があると聞いている、遅くなれば其処へ泊るもよかろう。