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じゅうえんさつ
十円札
穷得叮当响的作家堀川保吉,口袋里只剩六十钱,却还惦记丝帽、音乐会和女人。一张十円钞票的出现,能让他体面地撑过这一天吗?
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,647 字 · 18 页
粟野さんは何とも返事をせずに立ち上ったように覚えている。しかしどう云う顔をしたか、それは目にもはいらなかったらしい。爾来七八年を閲した今日、保吉の僅かに覚えているのは大きい粟野さんの右の手の彼の目の前へ出たことだけである。あるいはその手の指の先に(ニコティンは太い第二指の爪を何と云う黄色に染めていたであろう!)四つ折に折られた十円札が一枚、それ自身嬌羞を帯びたように怯ず怯ず差し出されていたことだけである。………
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保吉は明後日の月曜日に必ずこの十円札を粟野さんに返そうと決心した。もう一度念のために繰り返せば、正にこの一枚の十円札である。と言うのは他意のある訣ではない。前借の見込みも全然絶え、父母兄弟とも喧嘩をした今、たとえ東京へ出かけたにもせよ、金の出来ないことは明らかである。すると十円を返すためにはこの十円札を保存しなければならぬ。この十円札を保存するためには、――保吉は薄暗い二等客車の隅に発車の笛を待ちながら、今朝よりも一層痛切に六十何銭かのばら銭に交った一枚の十円札を考えつづけた。