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じゅうねんのおもいで

十年の思い出

宮本 百合子

「文章倶楽部」1926(大正15)年8月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,123 字 · 7 页

青空文庫

文芸のような無限の仕事をするものにとって、十年という月日は決して長いものではありません、考えように依ってはほんの僅かな一瞬間に過ぎないのに。そればかりのことをいかにも大そうらしく、十年の思い出などといわれることが私はほんとに嫌いです。それに私は文壇というようなことを、余り意識に置いておりませんし、一時かなり長く仕事から遠ざかっていましたから、格好なことは何にもないのです。

私は幼い時分から、本を読むことや、ものを書くことが好きだったので、今のように専心文学をやることになった初めも、いつの間にか自分の好きな道へ進んできたというだけのことで、一度志を立てて、などいうことは少しもないのです。ですから、どういう気もなく随分早くから書いたものも相当沢山ありました。そのうちから処女作として発表されたのがあの「貧しき人々の群」でした。私が未だ女学校にいる時に書いたもので、何といっても十八の少女でしたから、自分には何が何だか、唯夢中で書いた、いわば子供の自由画と同じことなのです。勿論、子供ですからいわゆる心境物なんてことはあり得ませんし、材料は自分が見聞きしたことを色々集めて、それを克明に書いただけのものでした。