轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

じゅうねん

十年

中島 敦

「學苑 第二號」1934(昭和9)年3月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,236 字 · 3 页

青空文庫

を降らせていたわけです。そういうわけで、僕は仏蘭西へ――わけても、この「よひどれ」の詩人が、そこの酒場でアプサンを呷り、そこのマロニエの並木の下を蹣跚とよろめいて行った、あのパリへ行きたいと思ったのです。シャンゼリゼエ、ボア・ド・ブウロンニュ、モンマルトル、カルチェ・ラタン、……学校の裏山に寝ころんで空を流れる雲を見上げながら幾度僕はそれらの上に思いを馳せたことでしょう。

さて、それから春風秋雨、ここに十年の月日が流れました。かつて抱いた希望の数々は顔の面皰と共に消え、昔は遠く名のみ聞いていたムウラン・ルウジュと同名の劇団が東京に出現した今日、横浜は南京町のアパアトでひとり佗しく、くすぶっている僕ですが、それでも、たまに港の方から流れてくる出帆の汽笛の音を聞く時などは、さすがに、その昔の、夢のような空想を思出して、懐旧の情に堪えないようなこともあるのです。そういう時、机の上に拡げてある書物には意地悪くも、こんな文句が出ていたりする。

ふらんすへ行きたしと思へど

ふらんすはあまりに遠し

せめては新しき背広を着て

気ままなる旅にいでてみん……

「ははあ、この詩人も御多分に洩れず、あまり金持でないと見えるな。