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ちよこ(に)
千世子(二)
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,249 字 · 31 页
だまって先ぐ後から軽く肩を抱えた。
急に振りっ返った京子は顔いっぱいに喜んで、
「まあ来て下さったの、わざわざ。
そう云ったっきり千世子の手を振って涙含んだ眼で胸のあたりを見て居た。
そんなに時間もなかったので千世子は入場券を買って居るとわきに居た京子は、
伯父ですの。
と云って一人の男の人を引き合わせた。
うすい地のインバネスを被って口元に絶えず堅い影をただよわせて居る人だった。
その伯父と云う人は千世子に通り一ぺんの口を利くとそのまんま赤帽の方へ行った。
ただ見かけただけだったにしろ、ろくに笑いもしない様な伯父と京都まで差し向いで居なければならないのかと思うと斯うやって満足して居る京子がみじめな様に思われた。
プラットフォームに入っては口もろくに利けないほど急いた気持になって持って来たチョコレートの折をわたしたりしわになった衿をなおしてやって居るともう発車の時になって仕舞った。
コトリと動き出して、京子の窓が三間ほど向うへ行った時千世子は何の未練もない様にいつもの通りの歩きつきでサッサッと停車場を出て仕舞った。
急に開けた往来の真中に立って見知らずの人達がただスタスタと目の前を歩いて行くのを見ると急に友達を送って来たと云う一種異った淋しい様な気持が千世子の胸に満ちた。