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ちよこ
千世子
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页
いかにも嬉しそうな声で云った。
「そう――いい事ねえ、迎に行ってやりましょう」そんなでもないと云った調子に千世子は云った。
よみかけの雑誌をもった母の顔を見て千世子は時と云うものを考えなければ居られない様な気がして居た。
その晩は随分おそくなるまで母親は千世子に自分の若かった時の事、姑が辛かった事などを話して居た。姑の辛さなどは自分の生涯うけずといい苦しみだと千世子は信じて居た。
翌日四時までの時間がかなり長く感じられた。
「Hが来るかもしれない」と云う事が千世子の好奇心をそそった。
割合にまち、割合によろこんだけれ共、電車から下りたのは小供達と源さんきりであった。
子供達は母と小さい自分の弟をとり巻いて、こないだのひなのかえった事からバラの一輪さいた事から私の部屋に鼠の出る様になったとやら障子の破けのふえた事まで話してきかせた。
母親は笑ってその報告をききながら一人一人の手をひっぱって見たり頭をこすって見たりして居た。
今までにないにぎやかさではんぱな時候で客は沢山居ながらもしずかなこの家に高い笑声をひびかせて居た。四方をガラスではった娯楽室に皆丸くなってトランプをする、歌をうたう、千世子は少し調子の変なオーガンさえ弾いたほどであった。