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ちよこ
千世子
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页
来るたんびに悲しい気持になりながら、
「でもまだ私をすきがっては居る、顔が青いとか頭が痛そうな目つきだと云って居た。
今はそれで満足して居なくっちゃあならない。時が来たら――」
とくり返して居た。
「時が来たら――」
心にくり返しながら、Hは源さんと云う人が居る――と思った事もあった。
「横どりされたんじゃああるまいか……」
源さんと一緒になれる様にねがいながら度々千世子の家に行った。
「今日は源さんも来てますワ」
と迎に出た千世子が云った日にHは目の辺りの筋をつめながら、
「そう、……」
と云って自分の体の囲りを見廻した。千世子は源さんよりもHによけい口をきき、
「この頃はほんとに変な気分な日ですワ、貴方頭何ともなくってらっしゃる?」
こんな事もきいた。
Hには自分も親切に案じながら同情しながら恋をしない様にとつとめ、そうすればきっと不幸になると云う女の心気持が分らなかった。
「やっぱりどっか母親の気持に似て居る、――」
Hはそう思うほか感情的な女でありながら先の事まで考えて居る女を解する事は出来なかった。
父親や母親が、
「一度ほかない一生だものネエ、出来るだけの事はするのがいいんだ、躰も心も健康になって行けば留学だってさせないとは云わないんだもの――」