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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

時には世間を知りぬいた女の様なさばけた様子をしたり、女王の様におごった心持となりをして見たり、又今の様にいかにも若い女らしいしなやかなこまっかい曲線をつくる身ぶりをする事等は千世子のくせの一つであった。

「あの人はあしたはあの部屋で製図をすると云うし、私はあのつづきを書けば好い。阿母さんは縫物と謡と本をよめば事がすむし、父様は事務所に行って……。お茶時には牛乳のお菓子を作ってあついコーヒーと一緒にHにあげよう」

千世子は子供らしいつみのないうきうきした気持で明日自分のする事、Hのする事、母親のする事等を考えて、Hが製図台の上の白い紙に快い音をたてて線をひく、その傍に大理石のテーブルの上にバラの生けてあるわきで自分の心からしみ出して来るしまった感情を字にして行く、その時のかおつきからさしこむ光線の色までを空に描いた。夜いっぱりでとびぬけて朝ねぼうの千世子は今夜にかぎって早くうす明るくなって来れば好い、こんなうれしい気持で迎えるあしたと云うものが早くその目を見開いてほしいと思ってはでな模様のあるカーテンを引いた。

目さめかけた小供のまぶたの様にぼんやりとあかるんで居る外の景色は、寝坊な千世子の今までにあんまり経験した事のない優しさと考えぶかさと気高さをもって居るものだった。