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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

「どれ――御馳走の指図でもしようか」

母親はものぐさそうにウンとこしょっと云って台所の近い西の戸から出て行った。

千世子はやたらにつかれた頭になって来た。一番深い椅子を選んでクッションを頭にあてながら二人の話をきいて居るうち、いつの間にかうたたねをしたものと見えて、目を覚した時体には赤い繻子の羽根ブトンが巻いてあった。

源さんは裏で弟達とテニスをして居るらしくおもみのあるボールの音がきこえて居た。

Hさんは懸命に線を引いて居たが身じろぎする音に気がついてふりかえってやさしい笑がおをしながら、

「寝ましたネエ、まだ頭がすっかりよくないんですよ、さっきつかれたらしい様子をしてらっしゃると思ってたら……」

製図台に後手をついてそり身になりながら目をこすってる千世子のかおを見て云った。

「どの位たったでしょう?」

「せいぜい一時間位なもんでしょう。そのふとんはあんた源さんが阿母さんにたのんで出してもらって来たんですよ、そいで貴方にきせてあげたんですよ」

「ヘエ……」

気分のはっきりしない千世子は気のない返事をして居た。だまって羽根ぶとんの影の多い赤い色を見て居るうちにやたらにすきだらけの様なかたい淋しい心持になって涙がにじみ出して来た。