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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

Hと源さんは庭の方から高く笑いながら入って来た。

「どう? もういい?」

源さんの口元にはさっきっからのつづきらしいわけの分らない笑がのぼって居た。

「この人達は自分の笑いたい事をさんざん笑ってその笑のおのこりをもって来て『どう?』なんかって云ってる」

千世子はカーッとしてでくの様の頭をふった。

「少し気分がよくないらしいんですねえ!」

Hは千世子の気むずかしい眉つきを見ながら云って長椅子に源さんと並んで腰をかけ、源さんは時々千世子の方を見ては体をゆすって居た。おしにされた小鳥の様にだまったまんま二人は椅子によって居たが、

「きりだけやってしまいますから……」

Hは云って立ち上ると源さんは千世子を見つめて居た目をあわててHの手に注ぎながら、

「どうぞ。私も何かしましょうから」

とばつを合せたつもりで下手な返事をした。

「千世ちゃん単純生活をかりて来ますよ、ネ? いいでしょう、そいからこないだのは本箱の中にしまって置いたから……」

「そう、そんならそうなさいあれの原書もあるワ、正面の棚の上から二番目のはじの方に……キット」

「僕はこの頃フレンチを独りでやってるんだけど……貴方もやって御覧な……そんなに骨も折れないから……楽しみに好い……」