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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

あやす様な口つきで千世子はHの肩ごしに下を見つめて居る源さんに声をかけた。

「ウウン、なんともないけど、あんまり好い気分じゃない」

源さんは千世子にいままで用ったことのないほどとげとげした言葉つきだった。

千世子はHとかおを見合せてたまらない様な不愉快なかおっつきをした。

「何かかんたぐってるんだ、かえったら説明してやれ、馬鹿馬鹿しい、男らしくない感情をもってるんだ!」

斯う思うとすぐ、今日一日は源さんを思いっきりいじめてやれとむごい心持になった。

「何が可哀そうなもんか、私を一寸の間でも不愉快にさせたんじゃないか!」

目黒につくと千世子は一番先に降りたHに外国の貴女の様にたすけられて気取った様子をして下りてHをまんなかにして歩き出した。三人はだれでもが行く不動さんの方に向いて居た。少しの間歩くと源さんは一寸後をすりぬけて千世子の傍にぴったりとついて歩いた。青っぱなをたらした子供やひねっこびれた小守達は千世子が油気のない髪を耳の両わきでとめてダアリアの様にリボンを結んで居るのや、うす色の絹糸をあんだ長いショールを長くひざの下まで合わせもしないで流した様子や男達と足をそろえて大股にシュッシュッと歩くのを妙な目をして見送って行きすぎると低い声でねたみ半分の悪口を云った。