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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

「思わない事もありゃあしませんサ、でもたった一人ぽつねんと行くのもいかがなもんですからネ」

その時Hの瞳が小供の様に澄んでかがやいて居た、人なつっこい様な輝きに千世子の心の一片方はまぶしそうにパチパチとまばたきをした。

そしてHに向う自分の心の眼がくもって居る様な、又何かをおっかぶされて居るんじゃああるまいかと思われた。

田端に下りるとすぐ千世子は、「何だかうすら寒いようですわネエ」と云ってショールを一つ余計に巻きつけた。Hと源さんとの間にはさまって両うでにつかまりながらくらい陰気くさい道を恐ろしい事に出合う前の様なおじた気持ですかし見ながらたどって行った。

「こんな道でもいざとなりゃなんともないんでしょうねエ、キット」

切りわりの道に声をひびかせて千世子は云った。

「いざっていうっていうのは?」

「マア例えばおっかけられた時とかかけおちの時」

「オヤオヤ偉い事を云い出したもんだ、それじゃあ今もかけ落ちしてると思ってたらこわくはないでしょう?」

「三人のかけ落ちってどこにありますの、それで又自分の家へかけ落ちするなんて……とうていそんな気持になれるもんじゃあありませんわ」