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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

母親はそんなに大して驚いた様でもなく又とびぬけた同情もない様な様子であった。そうした様子はその年のさせる事でもあるし、そう云う事のあった人の心理なんかはそんな事をあまり見もしず、まして経験などのあろう筈のない母親にははっきりとは分らなかった。

千世子は「女」と一言云った時には情にもろい中にもつんとした力のある生涯の事を約束したりして若しそれが成功しなかったら死ぬまで独りで居る様な信じられる考えのある女ばかりであって欲しいといつでも思って居た。独りで死ぬまで居られないんなら――そいだけ強いところがないんなら、お七の様に何にも考えずに只自分と男だけの世の中にしてしまう事の出来るほど情だけの女の方がまだ好い千世子のすきな女であった。

金のまばゆさに目のくらんだ女。病気で死ぬか生きるかに苦しんで居る男をこの時こそと云う様にすてて行った女。

斯う思うと、憎しみ、怒りのかたまりになってそのまだ見た事もない女の顔はとてつもないきたないものになって目の先にちらついた。

「にくらしい人ですねえ、何てまあ……、私と同じ女と云うもんの中にそんな人のあるのを思うと私はどうしていいかわからないほどになっちゃいますワ、ほんとうに……」