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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

にげる様に門の外に出てホッとした様にたいらに白く光って居る広い道をうつむきがちにあるいた。

友達は皆、

「貴方青いかおをしてらっしゃる」

「ゆうべよくねなかったとかおに書いてある」

なんかと半分ひやかしの様な調子に云った。不愉快な気持をこらえこらえして家にかえると茶の間ではHの笑い声がして居た。思いがけない事の様に千世子は母親にあいさつをしてからHのかおを見た。

「奥さんもとめて下さる――晩までとおっしゃるからどうせ今日はひまなんだからそうする事にきめたんです」

「だれでもがよろこぶ事ってすワ」

千世子はあんまり芝居めいた言葉だと自分でおかしくなってうす笑をした。

「一寸マア、この頃やたらに露国の脚本によみふけって居るんでまるで科白みたいな事を云う事があるんですヨ、面白うござんす家で芝居のただみが出来るんですもの……」

千世子は小さな子供のする様に一寸くびをまげてHを見て笑った。

「マア、ようござんすヨ、毎日を芝居にして暮していつまでも居られやしないんですものネエ」

Hはこんな事を云いながら遠いところに去ってしまったものをおっかける様な目つきをした。

「夕飯にはお父さまもめずらしくお家だから御馳走しましょうネエ」