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ちよじょ

千代女

太宰 治

「改造」1941(昭和16)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,997 字 · 23 页

青空文庫

ていたので、何心なく、ほととぎす、ほととぎすとて明けにけり、と書いてお師匠さんにお見せしたら、千代女でかした! とはじめて褒められたそうじゃないか、何事にも根気が必要です、と言ってお茶を一と口のんで、こんどは低い声で、ほととぎす、ほととぎすとて明けにけり、と呟き、なるほどねえ、うまく作ったものだ、と自分でひとりで感心して居られます。お母さん、私は千代女ではありません。なんにも書けない低能の文学少女、炬燵にはいって雑誌を読んでいたら眠くなって来たので、炬燵は人間の眠り箱だと思った、という小説を一つ書いてお見せしたら、叔父さんは中途で投げ出してしまいました。私が、あとで読んでみても、なるほど面白くありませんでした。どうしたら、小説が上手になれるだろうか。きのう私は、岩見先生に、こっそり手紙を出しました。七年前の天才少女をお見捨てなく、と書きました。私は、いまに気が狂うのかも知れません。