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ちよじょ

千代女

太宰 治

「改造」1941(昭和16)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,997 字 · 23 页

青空文庫

ても、決して投書しようとはしませんでした。あまり、しつこくすすめられると、私は大声で泣いてやりました。学校の綴方のお時間にも、私は、一字も一行も書かず綴方のお帳面に、まるだの三角だの、あねさまの顔だのを書いていました。沢田先生は、私を教員室にお呼びになって、慢心してはいけない、自重せよ、と言ってお叱りになりました。私は、くやしく思いました。けれども、まもなく小学校を卒業してしまいましたので、そのような苦しさからは、どうやら、のがれる事が出来たのでした。お茶の水の女学校に通うようになってからは、クラスの中で、私のつまらない綴方の、当選などを知っていたかたは、ひとりも居りませんでしたので、私は、ほっとしたのです。作文のお時間にも、私は気楽に書いて、普通のお点をもらっていました。けれども、柏木の叔父さんだけは、いつまでも、うるさく私を、からかうのです。うちへいらっしゃる度毎に、三四冊の小説の御本を持って来て下さって、読め、読めと言うのです。読んでみても、私には、むずかしくて、よくわかりませんでしたので、たいてい、読んだ振りして叔父さんに返してしまいました。