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ちよがみのはる

千代紙の春

小川 未明

「少女倶楽部」1923(大正12)年9月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,985 字 · 11 页

青空文庫

」といってゆくものもありました。

そのはずであります。こいは、幾年か大きな池に、またあるときは河の中にすんでいたのです。こいは、河の水音を聞くにつけて、あの早瀬の淵をなつかしく思いました。また、木々の影に映る、鏡のような青々とした、池の故郷を恋しく思いました。しかし、盤台の中に捕らえられていては、もはや、どうすることもできなかったのです。そのうえに、もう捕らえられてから幾日もたって、あちらこちらと持ち運ばれています間に、すっかり体が弱ってしまって、まったく、昔のような元気がなかったのであります。

大きなこいは、自分の子供のことを思いました。また友だちのことを思いました。そして、どうかして、もう一度自分の子供や、友だちにめぐりあいたいと思いました。

「さあ、こいを買っていってください。もう大きいのが一ぴきになりました。うんとまけておきますから、買っていってください。」

おじいさんは、その前を通る人たちに向かって、声をからしていっていました。晩方の道を急ぐ人たちは、ちょっと見たばかりで、

「このこいは値もいいにちがいない。」と、心の中で思って、さっさといってしまうものばかりでした。