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ちはやかんのめいろ
千早館の迷路
海野 十三
「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页
本館は塀と門内の木立とに遮られて、窺うことが出来なかったが、中はひっそり閑としていた。
そのまま千早館の前を通り過ぎた二人は、やがて同じ道を引返して来た。そしてこんどは崩れた塀の前に足を停め足場を調べた上で、二人は一向に悪びれた様子もなく、煉瓦の山を踏みわけて、塀の内に入った。
と、千早館の本屋は、今やあからさまなる姿を見せて二人の前に立った。
緊張に、二人とも声が出ない体であった。遠くから見たとは又別の感じがする本館であった。遠くから見たときは異臭紛々たる感じがする臓腑館のように見えたものが、こうやって間近に寄って眺めると、どういうわけか非常に落着いた優雅な調子のものに見えるのだった。煉瓦の色もそれほど赤過ぎることはなく、むしろその表面が白茶けて見えるのであった。何か灰のようなものが附着しているようにも思われる。煉瓦と煉瓦をつなぐモルタルは、ところどころすごく亀裂が走っているが、いかにも廃屋らしく見える。
この本館の玄関の大戸は、手のこみ入った模様の浮彫のある真鍮扉であったが、これはぴったりと閉っているばかりか、壁との隙間には夥しく緑青がふいていた。