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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

そしてその扉には、どういうわけか分らないが「戸ろ」と大きく白ペンキで書いてあった。

左右の壁の金魚槽、右側の壁の中にひそんでいるプロペラまがいの金属体、正面奥の赤い壁と、「戸ろ」と書いた扉! そしてこの横丁だけが、白々とした怪光に照らし出されている!

(一体これはどうしたわけか?)

さすがの帆村も呆然として、しばらくは春部のことも何もかも忘れて、塑像のように突立っていた。

10

「先生、奥に何かあるようですわ。奥へ入ってみましょう」

春部の声に、帆村ははっと吾れに戻った。

「あ、危い、待った!」

「ええッ」

「軽率に入ってはいけません。これこそ、この千早館の中の最大の謎なんでしょうから」

「千早館の最大の謎ですって?」

「なんと異様なものばかりが並んでいるじゃありませんか」

と、帆村は出来るだけ低い声でいったつもりであったが、しかしそれはかなり高く響いた。

「綺麗ですわ。趣味はいいとは、思われないけれど……」

「異様ですよ。グロテスクですよ」

「あの金魚のことをおっしゃるのでしょう、白と紫の斑の……呀っ、先生どうなすったんです」

「何がです。私がどうかしましたか」