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せんりがんそのた

千里眼その他

中谷 宇吉郎

「文藝春秋」1943(昭和18)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,478 字 · 26 页

青空文庫

我が国ではこの頃この線を生物線と呼ぶ人が多い。こういう不思議な放射線が実在するものなら、それは生物学界の大問題である。従って世界中で沢山の学者がこの線の研究に没頭して、一九三五年までに既に五百余りの論文が出ている。

この生物線も誠に不思議な放射線であって、或る学者の実験では出るし、他の学者の研究では出ない。出ない方が実験が下手かも知れないし、出る方が可怪しいのかもしれないので、騒ぎは益々大きくなった。

そのうちにバクテリアの増殖の場合にも出ることが分り、また酵母からも放射されるという人も出て来た。こういう風に研究が進んで来ると、化学変化もこの現象に関係があると言い出し、過酸化水素の分解が生物線で促進されるとか、酸とアルカリとの中和でも生物線と同じような放射線が出るとか、色々な実験結果が出て来た。その中にはゲールラッハのような世界的な物理学者の名も出て来た。

半信半疑のうちに、この生物線の研究はどんどん進んで行った。そして水晶分光器で生物線の波長を測った結果も出て来るし、また生体の血液からも出るということになった。健康な子供の血液からは盛に生物線が出る。