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うまいち

午市

宮本 百合子

「婦人公論」1922(大正11)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,146 字 · 17 页

青空文庫

おせいは、物珍らしいと同時に、一種名状し難い気づまりを感じた。通る女も、彼女のように重くるしい装のはなく、皆派手な湯上りか何かで、さらりと素肌に風を入れて行くのである。

薄暗い処を抜けて、また一つの通りに出ると、おせいは始めてややほっとした。

ここでは、往来が、両側の店舗から流れ出す燈火で、如何にも夏の夜らしくきらきらと輝いている。中央に、市が立っている。通りはおのずから二条に岐(わか)れて、子供連れだの夫婦づれだのの涼み客が、植木や金魚桶をひやかしながら、ぞろぞろ潮のように動いて行くのである。

「どうです? 何か一つおとりなすっては。なかなか馬鹿に出来ないものがありますよ」

一寸目に付く盆栽などがあると、小関はひょいと延び上って、器用に人の肩越しに、台の上を覗いて見る。

けれども、おせいは、その要領の好いひやかし振りなどにちっとも気をつけてはいられなかった。彼女は、多勢の人中で夫とはぐれないように、絶えず自分の片方に注意を配りながら、然も、一生懸命、初めての夜市の光景を見逃すまいとするのである。

何しろ人出が多くて、容易に露店の前までは近寄れない。