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うまいち
午市
宮本 百合子
「婦人公論」1922(大正11)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,146 字 · 17 页
彼女には、実に、解し得ないことと感じられる。しかも、心全体には、無言の裡に、暗い悲しい、憤おろしい迄の激情が迫って来るのである。
理屈でなく、議論でなく、おせいは、巨人のように力のある手を延して、一揉みに、この煌(きら)ついた、しらを切った建物を揉み潰してしまいたい心地がした。
壊れた屋根板を撥(は)ね、折れ倒れた鉄棒を掘り除けたら、中から、始めて、人らしい、涙を流す、自分達の仲間が出て来るだろう。
いくら考えても、嘘だかほんとだか判らないこんな穢い絵姿ではなく、ほんとに生き、心のある自分の仲間が、いるなら出て来、手に触り、倶に笑い、泣き出来るのではないだろうか。
おせいは、このまま眺めていたのでは、いつになっても正体の見極められない欺瞞に面しているような不快を覚えた。
小関は彼等を往来に遺したまま、まだ酒気の失せ切れない瞼をぼってり燈に照しながら、薄羽織の裾を揺すって格子の内側を歩いている。
底本:「宮本百合子全集 第二巻」新日本出版社
1979(昭和54)年6月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第二巻」