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うまいち

午市

宮本 百合子

「婦人公論」1922(大正11)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,146 字 · 17 页

青空文庫

「……行って御覧になりますか?」

彼女は、若し健介がいやだと云えば、忽ち断る積りで夫の顔を見た。

「物好きだね。――じゃあ御面倒をかけますかな」

小関は、如何にも自分達の申出が受けられたのを喜ぶ風に見えた。

「いらっしゃいとも。何にせ東京名物の一つですからね」

中腰になっていた彼は、立って、せかせかと薄羽織を着た。

「こういうお伴は、大好きですよ。いつだって十一時過頃まで、どこを歩いて来るんだか、ブラブラ出てばっかりいるんですからね」

おふゆは、後に廻って夫の羽織の襟などをかえしながらおせいを見、肩をすくめて笑った。

道を歩きながらも、小関が、まるで自分の財産の自慢でもするように、吉原の繁栄を誇るのが、おせいには滑稽にも片腹痛くも思われた。

小関の家から廓(くるわ)の中心まで、十町とはない位であった。従って、日が落ちると下駄の木地屋をやっている店を片づけ、晩酌でもすますと気が向き次第、ぶらぶらと、おふゆの云う通り、当もなく、あっちこっち覗いて歩き廻るのだろう。景気のよしあしに詳しいのも無理はない。よい案内者に違いないが、一方では、風俗問題だの国民の道徳問題だのと頭を悩す人達があるかと思えば、この小関のように、自分一人で、その土地の栄枯盛衰にあずかっているように、馴染深い親密な態度で向っている者もある。