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なんぽうゆうしん

南方郵信

中村 地平

「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页

青空文庫

これではさすがの旦那も始末に困ってしまうのである。

奥さんは隣り町の米問屋から器量好みで貰われてきているのであるが、旦那の機嫌をそこねないための心労で、今はすっかり老けた感じになっている。奥さんも、例えばワイシャツのボタンがひとつだけとれていたり、カラーが純白でなかったりすると、そのたびに旦那から頬っぺたを必ず一つ二つなぐられる。だから奥さんまでが、この可愛いメッセンジャア・ボーイの厄介になることがある。

「三太や。こんどお父さんに、しらん顔をして尋ねちみい。お父さんはなぜお母さんに乱暴ばするんですかって」

昼間差し支えがあって、乗馬できなかった日の夕刻は、旦那は晩飯をすましたのち、三太の手を引いて散歩することにしている。

家の門を出ると、旦那は先ず椎の樹の下にたちどまって、深呼吸の方式で大きな息をつく。息を吸いこむ時、旦那はいかにも快さそうに、静かに眼をつむるが、眼をあけて見ると、遠く暮れ残りの明るい空を残して、椎の梢のぐるりにだけ、既に早い闇が降りている。その闇を背景として、背景よりはいくらか黒い紫色で、蝙蝠の群がせわしくとび交うている。

それから二人は、長い木橋をわたって、隣り町へとゆく。