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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页
実際、旦那は新しもの好きである。
まだ旦那が若かった時分、その地方にはオートバイの姿は全く見られなかったが、いちはやく旦那はそれを上方から一台取りよせたものであった。そして、八反の着物を着たまま、ゴミ除け眼鏡を顔につけ、部落を乗りまわしたものであった。その姿は全く異様であったが、頓着するどころではなかった。着物の背を帆のようにふくらまし、白い花が煙ったように連なっている梨畑の間の埃っぽい田舎径や、冷たい川風が頬に当る長い木橋の上やを得意になって乗りまわしたものであった。
倦きっぽい旦那は、オートバイは半年もたつと全く見向きもしないようになった。しかし、ゴミ除け眼鏡だけは今尚残っていて、源吉爺さんが水中眼鏡に代用している。夏になると爺さんは、素はだかになって、この眼鏡をかけ、裏の川にもぐるのである。そして、ダグマ蝦を、忽ちのうちに十匹も二十匹も、棒杭の間や、筏の蔭でつかまえる。
旦那はまた五六年前、箱になった、自動的な活動写真機を買いこんで、表の椎の樹の蔭にたてて置いた。
穴のなかへ一銭銅貨を入れると、ひとりでにチャップリンの喜劇が覗けるしかけである。