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なんぽうゆうしん

南方郵信

中村 地平

「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页

青空文庫

この木橋の両端に、ひっそりした、二つの小さな部落がある。そのひとつは郡役所の所在する地方の名邑であるが、他は椎や樟の葉に覆われた寂しい村落である。牧の旦那の家は、その寂しい村の川岸にたっている。村でいちばん高い椎の樹と、その下の崩れかかった長い白壁の塀とが、旦那の家の目印になっている。

その太い椎の樹の幹の蔭から、毎日午後になると、脚の白い栗毛の馬にまたがった旦那の姿が決って現われる。風のない、晴れた暖かい日でさえあれば、旦那は馬に乗って村のなかをひとまわり散歩するのが日課になっているのである。

馬はトヨという名前で呼ばれているが、立派な尻と、ばかに大きく見える耳、それに均勢のとれた姿とをもっている。ただ、残念なことに、幾らか齢をとり過ぎていて、全体に骨ばった感じがし、歩くのが大儀そうに見える。

トヨの手綱は、源吉爺さんに握られているが、爺さんの姿は、トヨに劣らない位、十分にけだるそうである。いったいに、この地方では人間ばかりでなく、畜生までがだるそうな延びたような姿をしているのが普通であるが、それはこの地方が暖かい上に湿気が多いせいであろう。

旦那に聞えるか、聞えないかの低い声で鼻唄をうたいながら歩いている源吉爺さんを先達にして、トヨは毎日の道順にしたがい、軒の傾いた商家がたち並んでいる広い村道から、