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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页
機械は今でも古さびた姿でぽつねんと佇んでいるが、奥地から隣り町へ買い物にでかける百姓や、野菜売りは大抵その前まで来ると、脚をとめる。そして、しばらく思案したのちに、漸く決心がついたように、懐から紐のついた懐中をとりだす。それから銅銭をつまみ出して穴のなかへ入れる。
丁度、感激の最高潮に達した時、呆気なく映画は終ってしまう。すると、百姓は名残り惜しそうに、箱をガタガタ両手でゆすぶってみたり、箱の裏側へなんということもなしに廻ってみたりする。しかし、もう一銭投じない限りは、映画が再び映ることが絶望であることを知ると、しぶしぶあきらめなければならない。百姓たちは急に興奮した顔つきになって、辺りを見廻す。今見た映画の筋や、感想の一端やを、誰かに話すことを思いつくのである。しかし、辺りに誰も人がいないことに気がつくと、再び残念そうに大きな溜息をつく。そして、箱の前をたち去りながら、独り言をいうのである。
「ほんに永が生きしたごとある!」
椎の樹の幹や、葉っぱは夏になると道路の上に、大きな影を落して、天然のビーチパラソルをつくる。そして、パラソルの蔭には、梨売りや、大福餅屋の婆さん達が、小さな店を開くことがある。