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なんきょくのかいじ
南極の怪事
押川 春浪
「中学世界」1905(明治38)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,508 字 · 33 页
眼に四方を見まわせしが、フト一策の胸に浮ぶやいなや、狂獣のごとく走って船底に飛び降り、いまなお消え残る一個の船燈を取るより早く、燈を砕き油を船中に振撒いて火を放てり、悪魔の舌のごとき焔は見る間に船中を這いまわり、続いて渦巻く黒煙とともに猛火は炎々と立ち昇る、余は甲板上に飛出したり、オオ余は我船を焼けり、我船を焼けり、もし地球の果よりふたたび人間世界に帰らんとするならば、この船のほか頼むべき物なきに、ついにこの船を焼けり、余は寒さにたえずして余の生命を焼けるなり、かく心付くとともに、余はあわててその火を消さんとせしが、この火を消さば、余はただちに凍えて死なん、この火のある間がすなわち余の生存期間なり、余の身体はようやく暖かくなれり、されど余の胸のうちは苦悶のために焦げるようなり、とかくする間に火は船尾の方より甲板上に燃え抜けたり、余は夢中に船尾より船首に向って走る、火はあたかも余の後を追うよう、見る間に甲板上に燃え拡がれり、もはや行くに処なし、寒気のために凍死なんとせし余は、今や猛火のために焼死なんとするなり、余は天に叫べり地に哭けり、眼は独楽のごとく回転して八方を見まわすに、船を焼く