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なんきょくのかいじ
南極の怪事
押川 春浪
「中学世界」1905(明治38)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,508 字 · 33 页
人! 生ける人! と、余りの懐かしさにたえずその前に走り寄れば、こはそもいかにこはいかに、彼等はことごとく生ける人にあらず、笑いを含めるあり、六ヶ敷き顔せるありといえども、すべてこれ死してより幾千年をへたるにや、その全身はあたかもミイラのごとく化石しおれり、いな、ミイラにもあらず、化石にもあらず、また凍結せしものとも思われず、このへん地球の果の不可思議なる大気の作用にて、彼の巨船中のものはただに人間のみならず、珍宝も貨財もすべてあらゆる物、昔の形と少しも異る処なく、実に美わしき一種の固形体と化して残りおるなり、されど余はそれらの物を眺めおるうちに、真に名状すべからざる寂寞を感じたり、寂寞はやがて恐怖と化せり、もはや長く船内に留まるあたわず、逃ぐるように巨船の甲板上に出て見れば、余の帆船はすでにことごとく一団の火焔となり、火勢はその絶頂を過ぎてこれより漸々下火にならんとす、余は呆然として船首より船尾へと走りしが、炎々と閃めく火光にふとこの巨船の船尾を見れば、そこには古色蒼然たる黄銅をもって、左の数字を記されたり。
『瑠璃岸国の巨船』
『オオ、何等の怪事ぞ!』