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なんがをかくはなし

南画を描く話

中谷 宇吉郎

「中央公論」1941(昭和16)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,968 字 · 24 页

青空文庫

コスモスに句をいそがるる別れ哉     蓬

と賛をされた。

この幅が立派に表装されたところで、書斎の床の間にかけて、一人で眺め入った。そしたら仙台の秋が近々と蘇って来た。鵯の来る高い欅の梢はすっかり秋の色にそまり、芝生の中に一叢咲き乱れているコスモスの花は、強い日差しに照り映えていた。子供たちは、広い芝生を喜んで、いつまでも馳け廻っている。六尺の縁をへだてて広い座敷には、朱の毛氈がしかれ、真白な紙がちらばっていた。澄んだ秋の空気は、座敷の隅まではいって来た。そして床の間には、漱石先生の詩の双幅がかかっていた。

一年南画を勉強して、誰の前ででも平気で描くには、相当の修養が要る。それよりもそれを随筆に書くのは一層むつかしい。しかし人間一度度胸をきめれば、それくらいのことは出来るものである。

(昭和十六年七月一日)