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なんろ
南路
宮本 百合子
「太陽」1922(大正11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页
私は、気の毒に思うけれども、何と云ってよいか分らない。
暫の沈黙の後、傍の女の人は、
「旦那様をお呼びして来てあげましょうか?」
と訊ねた。
「私共は急いで支度をしてしまいますから。ね」
私は、もちろん同意した。もう二三分もかかれば、私はすっかり着物を著けてしまわれる。
然し、頭の痛い女の人は、それを拒絶した。そして、立ち上り、私が自分の仕末をしている間に、もう一人の手を借りて、殆ど驚くほど念入りに身なりを整えた。
時々、おお、おお、と云って頭を押えながら、彼方にピンをとめてくれ、それではヴェスティーが曲っていると、まるで女中を使いでもするように命令して、おそらくここで始めて顔を合わせた人に手伝わせているのである。
傍でそれを見ているうちに、だんだん自分の心の中には、最初とはまるで異う現象が起って来た。病人と称する婦人に対する同情が次第に薄らぐと共に、もう一人の、アメリカにもこんな人がいるかと思うほど、従順な地味な婦人に、一種の感歎を持ち始めたのである。
自分に、とても、あの真似は出来ない。恐らく歇私的里(ヒステリー)か何かで、頭の痛さを誇張すると同時に、わがままと傲慢とを憚らない態度に遭いながら、あれほど虚心にはいはいと世話が出来るだろうか。