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なんろ
南路
宮本 百合子
「太陽」1922(大正11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页
時間が来れば、乗り込ませる。乗り込んだら何時には動き出すだろう、と冷静に納った雰囲気が、高い石壁に落ちる燦(きら)めきのない光線とともに、凝(じ)っと我々の心まで、沈澱させてしまうのである。
感傷的になりようがない。
時間が来ると、私共は“All right, sir !”と頭で合図をしながら、ゆさりと鞄を持ち上げたポーターの、盤石のような背後に従って、黙って改札口を通り抜けた。
先は、爪先下りのだらだら坂になっている。それが尽きるところから人の顔も見分け難い薄暗闇の歩廊(プラットフォーム)が続いている。左手に、電気燈がキラキラする空の列車が横づけにされている。黙って大股に、車室の暗い腰羽目を幾つも通り越したポーターは、やがて一つのステップの前に立ち止ると、路を開いて、
「ここです」
と云いながら我々に入口を示した。
ステップの傍には、黒坊の給仕が、これも腕組をして立っている。
「何号の寝台ですか」
寝台券を渡すと、彼は、先に立って、我々の場席に案内してくれた。内部はまだ、がらんどうになっている。ちょうど、後の、コムパートメントに近い一隅に、私共を、一昼夜載せて駛(はし)るべきところが定められているのであった。