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いんしょう

印象

小酒井 不木

「新青年」博文館、1926(大正15)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,142 字 · 17 页

青空文庫

人工流産をしようとした心は忽ち去って、却って、どこまでも無事に生まねばならぬと決心したので御座います。と、申しますのは、一旦結核にかかった以上たとえ人工流産を行っても、恐らく再び健康になることはむずかしいであろう。そうすれば、なお更良人に邪魔物扱いにされて、苦しい厭な思いをしなければなるまい。健康であれば、思い切ったことも出来るけれど、病気になってはもはや世間も相手にはしてくれないであろう。それくらいならば、いっそお腹の子を無事に生み落して、自分が死んだ方がよいと思ったからで御座います」

夫人はここまで語ってホッと一息つきました。私は夫人がいまに何か怖ろしいことを言い出すにちがいないと予想して、全身の神経を緊張させて夫人の話にきき入りました。

「しかし、先生、私がお腹の子を無事に生み落したいと思ったのは、お腹の子が可愛いからではありません。むしろ子供を無事に生んで、良人に一生涯迷惑をかけてやろうという心が主だったので御座います。ところが、良人は私が床に就きますと、それをよいこと幸にして、こうして、私を本邸から離れた別館に移して、早く死ねかしの態度を取り始めました。