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げんしばくだんざつわ

原子爆弾雑話

中谷 宇吉郎

「文藝春秋」1945(昭和20)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,907 字 · 14 页

青空文庫

アメリカのことであるから、何百人の科学者を動員し、何千万円という研究費を使っているのかもしれないが、それにしても今度の戦争にすぐ間に合うというような生易しい仕事ではないはずである。こういう風に考えていたのは私たちばかりではないらしい。ところがそれがまるで桁ちがいの数字であったのである。「発見までには二十億ドルを費」し「六万五千を超える」技術作業員を擁した大工場の作業が、極秘裡に進められていようとは夢にも考えていなかったのである。

この金額や人員の数は、航空機の生産の場合などには、我が国でも何も珍しいことではない。しかし驚異的の超速度で進められたとはいうものの、この原子爆弾の完成には四カ年近い年月を要している。そして今年の七月十四日に「全計画の成否を決定すべき一弾」がニューメキシコ州僻陬の荒蕪地に建てられた鉄塔の上に吊されるまでは、それが本当に全世界を震駭させる爆弾として完成されたか否かは分らなかったのである。科学者たちは多分出来るであろうと言うが、果して必ず出来るか否かは分らない仕事に、これだけの費用と人とをかけるということは、われわれには夢想だに出来なかったのである。