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げんしばくだんざつわ
原子爆弾雑話
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」1945(昭和20)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,907 字 · 14 页
しかし私は負け惜しみでなく、原子爆弾が我が国で発明されなかったことを、我が民族の将来のためには有難いことではなかろうかと思っている。「原子核内の勢力が兵器に利用される日が来ない方が人類のためには望ましい」という考は、八年前も今も変らない。今回の原子爆弾の残虐性を知ってからは、科学もとうとう来るべき所まで来たという気持になった。
遠い宇宙の果の新星の中では起っていることかもしれないが、われわれの地球上ではその創成以来堅く物質の窮極の中に秘められていた恐るべき力を、とうとう人間が解放したのである。開けてはならない函の蓋を開けてしまったのである。これは人類滅亡の第一歩を踏み出したことになる虞れが十分にある。今回の原子爆弾は原子火薬を使うものとしては火縄銃程度と考えるのが至当であろう。この火縄銃が大砲にまで進歩した日のことをありありと想像し得る人は少いであろう。
新しい発明の困難さはそれが果して本当に出来るか否かが分らない点にある。一度何処かでその可能性が立証されてしまえば、もう半分は出来たようなものである。米英両国以外でも間もなく色々な型の原子爆弾が出来る日はもう遠くはあるまい。