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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

」

保子は眉根一つ動かさなかった。憎悪の念に凝り固ってるかと思われた。周平はぴょこりとお辞儀をした。そして、立ち上りかけながら云った。

「私は自分を……。」

云いかけて彼は口を噤んだ。じっと眼を見据えてる保子の姿が恐ろしくなった。彼はまたお辞儀をした。一寸待った。そして逃げるように二階の室へ上っていった。

二十一

周平は、一月近く起臥した室に、これを最後の気持で身を投げ出した。明日は永久にこの家から去るつもりだった。そうすることが誰のためにも一番よい方法だと思った。

今迄のことを考えると、真暗な森の中にでも迷い込んだ後のような気がした。何かを見定めようとしても、まとまった象は一つも浮ばなかった。頭がぼんやりして考える力がなかった。

彼は両手を頭の下にあてがって、仰向けに寝転んで天井を眺めていたが、ふと思い出して、身廻りの物を片付け始めた。身廻りの物といっても、二三枚の着物と四五冊の書物だけだった。彼はそれを丁寧に風呂敷に包んだ。そしてぼんやりと坐ってると、風呂敷包みを手にしてこの家から出ていく自分の姿が、まざまざと見えてきた。その姿が首垂れながらとぼとぼと歩いてゆく、宿りを失った旅人のように。