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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
それをじっと眺めながら、彼は咄嗟に云った。
「では黙って貰っておきます。」
「え?」
小さな眼が一杯見開かれてきょとんとしていた。周平は云いなおした。
「分りました。」
一方へ持っていかれた心がまた他方へ引戻されたというように、彼女は中途半端な顔付で、一寸上目を見据えたが、やがて両方とも腑に落ちたらしく、じっと周平の顔を見戍った。「馬鹿な人ね、」とその眼付が云っていた。
彼ははぐらかされたような気持になった。口先だけで云ってみた。
「奥さんくらい気むずかしい人はない。」
「そう。」と彼女は気の無い返辞をした。
彼は口を噤んだ。いやに考え込んでしまった。
四
それは、謎を投げかけられたような気持だった。
「奥さんくらい気むずかしい人はない、」と彼が独語めいた調子で云ったのは、表面からの言葉だった。裏面から云えば、「奥さんくらい無頓着な人はない、」となるのであった。相手の正当な申出を頭からけなしつけたのが、気むずかしいのだった。相手の考えを眼中に置かないで独り合点をしてるのが、無頓着なのだった。其処に、周平の眼に映じた保子の二方面があった。そしてこの二方面は、実は同一性格の両面に過ぎなかったが、それが親切とか好意とかの衣に包まれて、一つの事柄に就いて一人の者に対して同時に現わされたために、変な不調和を示したのだっ