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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

た。周平は二つの心に相対したような感じを受けた。一つの心は、思いやりのない得手勝手な冷かなものだった。も一つの心は、個人と個人との境界を無視した温い抱擁的なものだった。

「自分に対する保子の心は、二つのうちの何れなのかしら?」と周平は考えた。考えようによって、どちらにもなりそうだった。彼はその間の去就に迷った。さりとて、両方だときめるのは、今の場合彼にはつらかった。彼は保子から、冷淡か温情かの何れかで遇して貰いたかった。峻烈な批判を加えられるか、或は温く抱擁されるか、何れかでありたかった。

「それは兎に角、自分は忘恩者でありたくない、」と彼は、問題をそのまま抛り出して、別な結論に辿りついた。そして、夫人へはこのままでいいとして、横田氏へは一言感謝の意を申して置きたかった。

周平は、水曜の午後少し遅く出かけていった。

横田は、週に四回商科大学で語学を講じていた。然し彼は元来文学者だった。折にふれて新聞雑誌に、外国文学の紹介をすることなどもあった。未来は批評を以て立つつもりだった。それで彼の周囲には、文学を愛好する青年の小さな群が出来ていた。その連中がいつとはなしに、水曜の午後から晩へかけて、横田の書斎に集ることになっていた。