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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

隆吉の面倒をみて下すってるんだから、私共からそのお礼を差上げるのは当然じゃないの。もし私共の方で忘れたら、進んで云い出して下さる位でなければ、いけないわよ。それなのに、月末だからといって、すぐに逃げ出そうとしたりして、ほんとに可笑しな人ね」

最後の言葉に少し浮いた調子があったので、周平は漸く落着くことが出来た。

「でも、金のことは何だか厭ですから……。」

「だからあなたは、お金に縁がないのよ。」

そう押被せておいて、彼女は調子を変えた。

「国許から送って来るだけで、どうにか間に合いますか。」

「ええ。然し全くの所、どうにかという程度です。」

彼は冗談のようにして云った。

「でもねえ、」と保子はやはり前の調子で云い続けた、「もし不自由なことがあったら、いつでも仰しゃいよ。隆吉のことをお願いしたのだって、ただであなたを補助するのも悪いから、ほんの名目だけだと、横田もそういうつもりですから。……一体あなたは、余り遠慮深すぎていけないわ。これから、すっかり明けっ放しで、遠慮なしにしましょうよ、ねえ」

しみじみとした感傷に囚われようとするのを、周平はじっと堪えた。顔を上げると、保子の清い露な眼はちらと瞬いて、長い睫毛の奥に潜んでしまった。